●寒の味

4273031_s 昔の人は、極寒の冬の時期を「寒」と呼んでいた。そして、ひどい寒さにくじけずに、逆にこれを利用していた。
 寒中水泳、寒稽古等で身体を鍛えた。今日でも、一部の人が、行っている。
 この時期の水は寒の水と言って特別の性質があるとして、口紅を作るのに用いて、これを寒紅として、大切に扱った。

 お酒も昔は、春酒・秋酒と言って、年中いつでも造っていたが、寒い冬に造る寒づくりが一番良いことが解って、殆ど寒づくりになったが、今は技術が進み年中つくられている。
 食べ物に関しても、寒のなになにという名で賞味されている。
                           
★寒さらし  モチ米を寒の時期に水につけてさらし、石臼で砕いてふるいにかけ、それを水にさらす。10日間くらい晒し続け、袋に入れてしぼり、袋の中に残ったのが白玉粉になる、しぼった粉を、干し乾かして、こなごなに砕いたのが白玉粉である。
 この仕事を寒中に行うのは、さらしておく時間の長さや、寒さや寒さによってさらしている水が凍ると、純度の高い白玉粉ができるからだとされ、寒さらしという名がついた。
▲白玉は水で白玉粉をこねて、ゆで上げたもので、冷たくして密をかけてたべる。寒につくったものを暑い夏に食べるのも、風情があると言われたりしたが、今はアイスクリーム同様冬でも食べられている。
▲しる粉にお餅を入れるよりも、白玉が良いと言われるのは、白玉はねばりが少なく、さっぱりしているからである。
                             
★寒天(かんてん)寒天を作り始めたのは、京都南の伏見の里で、伏見に近い黄檗山万福寺の開祖である隠元が、冬の寒い夜にトコロテンを凍らせているのを見て、これに寒天という名をつけたということである。この寒天が工夫されて、練羊羹が作られた。それまでは、蒸し羊羹だった。
甘辛のれん会加盟の鶴屋八幡・大阪の駿河屋の練羊羹は、どちらも逸品で定評がある。
                                            
★寒卵(かんたまご)  農家の庭で今でも放し飼いをされているニワトリの産卵は、珍品で、黄身がしっかりしていて、とても美味しい。
                                     
★寒鰤(かんぶり)  夏の初めに南日本の海で産卵し、この卵がブリの子に育ち、北に向かって進みこの子魚を生簀で育てたのが、養殖ハマチ。自然に海で育って秋になり、北の海の温度がさがると、南へきて、翌年の夏に北に向かい、カムチャッカ半島にまで回遊し、また北から南へと繰り返す。北から南へくる親ブリが春の産卵にそなえて、エサを沢山食べてよく太り、アブラがよくのり美味しい。これが寒鰤である。
                                
★寒鯉(かんごい)  5,6月ごろ浅い所の水草に卵を産む。野生型と飼育型とがあり、野生型は細長く、飼育型はずんぐりしている。食べられるのは、飼育された鯉で、マゴイは、寒い水中では、なるたけ不深くひそんで、春の産卵にそなえ、精力を蓄えている。寒のコイの美味しさは蓄えているアブラの為である。         
                                    葛 城 陽 子