老舗と私   御昆布司  松前屋

kobu<毎日の食卓に 古伝の塩昆布を>
 1912年の創業以来、初心を忘れず最高の昆布にこだわり続けた「松前屋の昆布」は、独自の製法で仕上げた逸品揃い。朝、晩の食卓に美味しさを添え、お昼のお弁当にもほんの少しあるだけで、心豊かに食べやすくしてくれる。
昆布は喜びに通じ、古来、慶事には必ず用いられている。正月用の煮〆、結納、結婚式、受賞のお祝いの引き出物、また今は長寿になったが、古希をはじめ折々のけじめのお祝い
等、また日頃お世話になった方への感謝のしるしとして、あるいは贈答用品として、とても重宝なものである。


最近は、少人数のご家庭が、多くて、相手様の好みを考えたりしていたら、あれこれと悩むことが多いが、昆布だと日持ちがするので、安心して差し上げることが出来る。
 いつもご自分の畑で収穫した季節の野菜や果物を届けてくださる方がいて、お陰で旬のものを年中食べさせていただいているが、盆・暮にまとめてお礼のものをと考えるが、そこは農産物はたっぷりあるし、若いお嫁さんは、ケーキや、お菓子づくりが器用で、時々お裾わけを頂くくらいで、ご主人は、お酒・ビールは飲まないという。考えた末に松前屋の「昆布の詰め合せ」をお贈りしたら、「こんな美味しい塩昆布は初めて食べた」ととても喜んで下さって、多いに面目をほどこした。以後数十年続いている。この頃は家族の方が時季が来ると、もうそろそろ かなと待っていて下さるということだ。
 
 松前屋の昆布のなかでも代表作といわれる<とこわか>は、一枚、一枚を丁寧に吟味し、伝統の技法を集約してつくりあげた昆布の最高峰と評判が高い。吹き上がった塩に得もいわれない風格を誇り、丹精込めた風味は、千金の美味で、贅沢ながらお茶漬けによく、また酒肴にも喜ばれ、食卓の人気者である。<とこわか・常若>は、お客様が常に健康で、若々しくというお願いをこめて名付けられたという。<とこわか>を高齢者、子どもでも食べやすいようにと、細切りにしたのが、<松ケ枝>で、これもお目出度い名である。
 <おぼろ><とろろ><昆布巻>その他ある中で私が今、一番はまっているのが、<椎茸入り昆布>である。丹精込めて丁寧に煮込まれた昆布は、塩昆布とは思えないほど塩分を感じなく、厚みのある重厚感にかかわらず、口の中でとろりと溶けたのかと思うほど、柔らかくノドを通過する。
 大阪市内へ出かけた折は、必ずアベノハルカス近鉄デパートへ立ち寄り購入することにしている。スーパーで買った塩昆布は、同じ容器に入れても長いこと食卓にあるが、この昆布は、すぐになくなるのは、わが家族は、やはり、味の違いがよく解るのだろう。
                                    梶 康子