老舗と私 ★先春園(銘茶)
大阪で現存する茶舗では、一番古い歴史を誇っている。創業は文久3年(1863)にさかのぼる。若かりしOL時代、勤務先の会社が来客用に先春園のお茶で接待していたので、美味しいお茶に慣れ親しんでいたものだから、他所で、不味いお茶を出されたときは、はっきりとお茶の味が判り、改めて先春園のお茶の良さを認識したものである。結婚してからは、上等のお茶ばかり飲んではいられないので、お茶の美味しい淹れ方を自分なりに工夫して、来客に「美味しいお茶ですね」といわれた時は本当に嬉しいものである。これも本当のお茶の味に親しんだからこそ、本物の味を知っていたからこそ、美味しいお茶を淹れられたのだと思う。
年齢を重ねて、お茶会にもお招きされ出席する機会が多くなると、終い込んであったお茶道具を引っ張り出しては、お茶椀を購入した時の思い出の一つ一つに耽りながら、一人静かにお茶を点てる。そんな時は、やはり先春園のお茶を購入しているが、お茶がまだ新鮮なうちに、大切なお方を招き、ともにお茶を楽しんだりする。
去る日、お茶会に招かれた際に、先春園のお茶が点てられていると聞いたが、何故か嬉しく誇らしげに感じた。何かにつけて先春園のお茶に親しんでいるので、自然に馴染んでいたのだろう。
偶然お正客の方も先春園のお茶を使われているとのことで、その方との会話がはずみ、お庭の散策をご一緒させて戴いたりして、楽しいお茶会の想い出が出来て、益々お茶友達の輪が広がった。
深まりゆくこの季節のしずかな夜、お茶を点て、器にまつわるそれぞれの思いを引き出しながら、しみじみと越しかた、人生を想う昨今である。
年末・年始にかけて、茶事・茶会が、開かれるが、待ち遠しいことである。
昔からお茶は、人間の健康維持においても良いとされているが、食生活の洋風化で、以前ほどお茶を飲まなくなって、日本人がお茶離れしたとはいうものの、近年お茶の良さが認められ、日本茶が飲まれるようになってきた。
お茶は自然の香りと味が、心に和らぎを与え、楽しい雰囲気の中に暖かい安らぎをもたらしてくれる。お茶を飲みながらのお話もはずんで、我々の日常の生活にすっかりと、とけこんでいるのである。
梶 康 子