●老舗と私 

WS000004★吉野寿司  純大阪寿司
 創業天保12年(1841)「大阪寿司」に頑固なまでにこだわり続けて今日に至っている。
大阪寿司の代表は、押し型にシャリを入れて、その上に小鯛、穴子、椎茸などを並べ、軽く押して仕上げる。
 大阪寿司は、二口、三口と分けて、口に入れるので、「大阪寿司は、寿司飯に六分の味」といわれるくらいに、タネ以上に寿司めしに重きを置くという。
 始めて取材に伺った時、真っ白の料理着に、真っ白の前掛けをキリリと締めて、当時の当主ご自身が、調理場から「のれん誌は毎月読ましてもろてます」と勢いよく声をかけてくださり、思わず「有難うございます」嬉しい言葉に感動したのをしっかり覚えている。そして、大阪寿司のことをいろいろと教えて下さった。
                              
 従来の大阪寿司は大衆的な食べ物で、値段もごく安く、料理というより、いっときをしのぐ手軽なものとして扱われていたが、吉野寿司の三代目は、鯛、海老、鱧など高級な材料を使って工夫を重ね、結果産まれたのが、現在の「箱寿司」で、卵焼きも研究の結果、白身の魚の磨り身を混ぜての厚焼きを考案した。
                               
 いうまでもなく米は最高級。出しの昆布はむろん厳選された最高級品を使用している。昆布だしをたっぷりと含ませて、良質の米を炊く「おすもじ」は、じっくりと噛み締めて味わえば味わう程、寿司の真味がたっぷりと味わえる。
                                        
 江戸前のにぎり寿司は、多くは握ったらすぐに食べるが、箱寿司は、店で買ったものを家に持って帰り食べても、味が変わらないのが特徴である。
                               
 当主はわざわざ私の為に、「蒸し寿司」をご自身で蒸し上げて御馳走してくださった。お寿司は、冷たいものと思い込んでいた私は、産まれて初めて戴く暖かいお寿司に驚きもしたが、戴いてまた驚いた。ほんわかとした温もりが、優しく口の中で広がり、今まで食べたお寿司とは別のお寿司の美味しさを初めて知った。身も心も暖かくなった私に、ニコニコしておられた当主の顔が今でも忘れられない。
 蒸し寿司は、やはり冬の間が好評で、ちらし寿司とよく似ているが、蒸し物だから生身は使用していない。日持ちするのが重宝で、お土産として喜ばれるとおっしゃっておられたが、原稿を書いている今の寒い季節になると、懐かしく思い出される。
                                 
☆他に<吉野寿司>自慢の *並巻寿司 *上巻寿司 *鯛寿司 *鯖寿司 *穴子寿司*ちらし寿司 *蒸し寿司 *小鯛寿司 *その他ある。                梶 康子