●お正月の準備

WS000002★煮〆 関東では<オセチ>関西では<ニシメ>  
 昔は、小売店はもとより卸店や問屋も製造元も、正月五日までは、休んでいたので、年の内に<オカズ>をつくっておいたのが始まりで、昔の人は、冷蔵庫もない時代に、少なくともお正月三カ日はもとより五日まで保たせるために、大変な苦心をして、工夫をこらしてつくりあげた。
 初めは、大根、ニンジン、蓮根、牛蒡などの植物質のもので、つまり、お精進<しょうじん>ではじまったが、コンニャク。ゴマメ、高野豆腐などが加わったのは、徳川時代の末か、明治このかたのことで、カズノコは明治の半ばからだといわれている。
                         
★ぼうだら
 おせちは、だんだん豪華になって、デパート・スーパーなどは、予約の注文を受けるのにあの手この手で、まだ9月だというのに大商戦が繰り広げられている。それも万円台どころか桁があがってきているのには、まったく驚くほかない。昨年などは、注文はとるが、元旦に間にあわなかったという落とし話まであって、大変なことである。
              
わが家では、大晦日に出来る限りのものをつくるようにしている。その一つに<ぼうだら>がある。姑が、毎年、暮れ近くなると、ぼうだらを買いこんできて、数日間お米のとぎ汁につけて、気長に煮て、好みに味付けする。姑の<ぼうだら>に慣れ親しんでいたが、姑が亡くなった年、出来あいの<ぼうだら>を買ってきたが、家族の口に会わず「おふくろの味」を、改めて懐かしく思い知った。
以後頑張って、<ぼうだら>づくりに挑戦していろいろなことが、わかった。<ぼうだら>が意外に高価なのは、普通の料理と違って、大変な手間ひまをかけているからだ。
                      
鱈(たら)を開いて干して、かんかんの棒のように、乾燥した乾物の棒鱈を軟らかく煮るまでの手間を、かければかける程、手数をかける程、美味しいものなのだ。
圧力鍋で煮ると短時間で軟らかく煮ることが出来るが、何かもう一つ何かが足りないように感じるのである。じっくりと煮た、あの懐かしい「おふくろの味」がしない。家族は美味しいと言ってくれるが、私の気持ちは納得できない。煮過ぎると身が崩れるので、頃あいをみはからって素早く、普通の鍋に移して、じっくりと煮て、丹念に味付けに心を傾ける。何度も「味み」をして、その間は目を離せない。<新・おふくろの味>誕生である。
今は、嫁が受け継いでくれているが「手間のかかる<ぼうだら>は、出来あいでいいよ」、といっているのだが、工夫しながら美味しい<ぼうだら>を煮てくれている。嬉しいことと感謝している。
                                   東 雲 宣 子