食べ物雑感・いろいろばなし

zenzai
料理言葉に「かくし味」とか「かくし刃」とかいうような用語がしばしば用いられる。かくし刃とは、ひとに気付かれないように、食材に包丁の切り目を入れて、煮えやすくし、また、食べるときに、箸で、ちぎりやすくするのをいう。
例えば大根の切り口の裏側に十文字等の、切り込みを入れて調味料が芯まで、浸透するようにするのも、一種のかくし刃であろう。

かくし味も同様の考え方で、ひとに気付かれないような調味法で、味にコクをもたせたり、ごく少量の添加物で風味や香気をもたせることで、また、添加物そのものを、かくし味ということもある。料理屋ではもちろん調理上の秘法であって、一般には公開されないが、各家庭でもその家独特のかくし味があって、いつしかそれが「おふくろの味」として、伝承されている。
家庭料理は、調味料はふんだんに使っていながら,なんとなく一本調子で、物足りない感じがするときがあるが、専門店の料理は、うす味でいながらコクがあると、いわれることがある。理由は色々あるが、その一つにかくし味が大きく作用しているのではなかろうか。

● 醬油で洗う。
醬油がかくし味で、茶碗蒸しの中へ豆腐を入れる空也蒸しは、豆腐を醬油で洗ってから用いる。他にも例えば野菜のインゲンを熱湯でゆでて、ゴマ醬油、あるいはゴマ味噌和えをするのだが、それだけではどうしても、水っぽさを感じる。それではどうすれば良いのか? これはある女将に教えてもらったのだが、ゆで上げたインゲンの熱いうちに、さっと醬油を振りかけると、味が中まで浸み込んで、ゴマ和えにすると、水っぽさもなく、いわゆるコクのある味となる。

● ぜんざいに塩
 ぜんざいに塩を入れる、かくし味は、多く知るところになっているが、不思議なことに、甘いぜんざいに何故塩なのか? 初めて母に教えられて半信半疑で塩を入れたときのことを思い出す。砂糖だけのぜんざいと、塩を少し加えたぜんざいを食べ比べてみたら、丸みとコクのある変化に、目を見張ったことを昨今のように思い出す。

同じ年頃の旦那をもつ、ママ友で、旦那の厄年の節分の日に、それぞれ自分たちでつくった、ぜんざいを配って歩いたが、材料は同じなのに、その味は微妙に違い、かくし味の持つ、この場合は塩のサジ加減のおおきな存在感に、認識を新たにしたことを、覚えている。
                                       梶 康子