老舗と私 菱富<うなぎ>
大阪では珍しい江戸風焼きの伝統を誇る老舗。うなぎを背開きにするのを本格としている。
江戸風の蒲焼は、焼く途中で蒸し器で蒸して、タレをかけて仕上げているので柔らかい。
大阪の腹開きに対して、江戸と言えば、昔から武士の町だったので、腹を切るのはタブーとして嫌われたので、背開きにするということである。
<菱富>は、うなぎ一筋120余年。変わらぬ伝統の味で、うなぎ料理を格調あるものとし、大阪にあってなおも江戸風を堂々と護り続け、今日に至っている。
風格のあった大阪南、宗右衛門町の建物は、惜しくも姿を消し、平成8年に現在の店が新築された。
庶民的なうなぎを高級うなぎ料理に仕立て上げた<菱富>に相応しく、どっしりとした黒塀に囲まれ、風格を誇った建物であったが、確かに贔屓の馴染み客以外は足を踏み入れにくい感じはあったかも知れない。が、私には一種の憧れでもあった。
新しい店は、何のこだわりもなく入りやすい雰囲気が漂っている。
古い「のれん」に培われた伝統の技と味
いつも変わらぬ暖かいおもてなしの心
くつろぎのひとときを演出する憩いの食空間
手軽に昼食などが楽しめる一階のテーブル席
二階は少人数のご会食に最適の純和風の粋な小部屋
各種会合にご利用いただける広々とした座敷
大阪の都心とは思えぬ落ち着いた雰囲気で、なごやかな「食」の醍醐味を堪能。
時代がどのように変わろうと、真心を込めたもてなしは、これからも変わることはない。
夏の土用の丑の日に、うなぎを食べる習慣は、あるうなぎ屋さんが宣伝の為に、平賀源内らの知恵を借り、夏バテに効くと言いふらしたのが当たって、一般に信じられ、今日までに至っているのが、通説とされている。
何故、特別に土用の丑の日なのか? 文政年間(1818~1829)春木屋善兵衛といううなぎ屋さんが、客から暑中のカバヤキの保存法を尋ねられ、土用の子(ね)の日から三日間うなぎを焼いて、ビンに入れて密閉し、穴倉に埋めて実験したところ、丑の日に焼いたものだけが、良かったので、丑の日と決まったとも言う。
うなぎは四季を通じて美味であるが、食べる側の人間が、そろそろ夏バテを意識する土用の頃、脂肪とビタミンAの多いうなぎは栄養価が高いので、旬(しゅん)は土用の頃とする考え方もある。うなぎの肝は特によく効くという。
梶 康子