旬の美味 お彼岸の食事

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 彼岸は、春・秋の重要な年中行事として、今に引き継がれている。俗に「暑さ寒さも彼岸まで」といわれ、太陽暦の春分。秋分を中心として季節感を表示したのが、仏教渡来後、陰暦によって前後の七日間を彼岸会としたので、陰暦の行事と思われているが、根本は、太陽暦によるという。
 仏教では「生死を以って此岸(しがん)とし、涅槃を彼岸とす」とあり<古事記>の天照大神の思想に発した聖徳太子の法華経尊信が共通していて、<源平盛衰記>に「菩提の彼岸に届かざれば」と、また、謡曲の<天鼓>に「いつか生死の海を渡り、山を越えて彼岸にいたるべき」とあるのも、同じ思想からである。

 食生活では、季節の分かれめであるため、まだ材料が、豊富に出回らないうちに、祖先を祀る精進料理となるので、山采を利用して、ボタモチと、オハギと、いなりずしを祖先に供えたのが、習慣となり、現在でもボタモチ・オハギは供えられている。近親知己へ配られていたいなりずしは、配らなくなってから久しい。

精進料理 
 元来、精神修養にあるものが、実行するについて、どのようにすれば、また、どのような形式にすれば良いかということから、「美食を戒めて素食するのが、精進」ということで、ナマグサを用いない調理だけが、精進料理とされた。
 越前に永平寺を開いた道元は、日本の中興の祖といわれているが、調理技術は、当時留学していた宗からの伝習と、日本の国情と、国民性にうまく融合するようにし、いまも伝統として遺されている。
 中国風の精進料理は、山城宇治の万福寺の「普茶」で、これは開山の隠元以来、代々の山僧が、帰化僧であったので、永く祖国の風を伝えていまに及んでいる。門外にある業者もこれを看板にしている。

精進揚げ
 揚げ物の一種で、さつまいも・ごぼう・れんこん・にんじん・なす・たけのこ・隠元豆・三つ葉・菊菜と、海苔、海藻類に小麦粉を溶かしたコロモをつけ、ゴマ油で揚げたものをいう。魚介肉の濃い味に対して淡泊な味が、かえって食通、グルメや年配者に喜ばれ、野菜天ぷらとして、人気がある。

精進なます
 魚、鳥の肉を用いずに植物性のみで仕上げたナマスのことで、季節に応じて三杯酢、ゴマ酢、柿酢、たで酢などを用いる。                 東 雲 宣 子