花物語 ― 夾竹桃<きょうちくとう>
夾竹桃の花が咲くと、亡夫のことが思い出され胸が騒ぐ。
もともと主人の家系は石川県出身なので、お盆はお墓参りに行くのが、毎年の行事になっていた。新婚時代は二人で、北陸道を渋滞に巻き込まれながらも、楽しくドライブ気分で走った思い出。長男が生まれ、二男が生まれ、そして長女と、当たり前のことながら、家族に恵まれ幸せを車にいっぱい積んで、金澤を足がかりにしての家族旅行を楽しんだ。
夏は花を咲かせる大きな木が少なく、その中で夾竹桃が夏の暑さに負けず、花を咲かせているのを見ると、ある種の安らぎを覚え微妙な感動を伴う。
「あの夾竹桃が咲いているということは、○○までもうすぐだよ」
亡夫はいつもの夾竹桃を見ると、ホットするのだという。代わりに運転する者が居ないので、今と違って道路事情も良くなかったしで、時々適当に休憩するとはいえ、長距離の運転は大変だったのだ。
夾竹桃は、葉が竹の葉のように細長く、花が桃に似ているところからこの名がつけられた。白や淡い黄色の花もある。もともと排気ガスに強いので庭木のほか、街路樹としても植えられている。
常緑低木で高さ3~4m。枝はよく分岐して素直に伸び、長さ6~20㎝の厚く光沢のある葉が輪生する。花は多数つき、6~9月に咲く。花の直径は4~5㎝。一重咲きと八重咲きがある。
亡夫が他界した夏、色々な手続きを経てお墓をごく近くに移した。二男の車に乗せてもらって、北陸道を走ったが、主人の言っていたところに夾竹桃は見当たらず、思わず涙が出てきた。
去年の夏のある日、いつもと違うコースをウオーキングしていたら、大きなお屋敷のお庭に夾竹桃の花が咲いていたのである。思わず立ち止まって暫く眺めて、どれぐらい経ったかわからないが、かなり立っていたらしい。
中から奥さんが出てきて「どうかなさいましたか」と聞いて下さり、事情を夾竹桃の思い出などを話したら奥さんは、私の手に持ち切れないほどの、夾竹桃の花を持たせて下さった。
「葉の水揚げが悪いので、葉を間引いて少なくするほど、水揚げがいいですよ」と活け方まで教えていただいて、御蔭さまでお仏壇はもとより、家中が夾竹桃の花盛りとなった。
梶 康 子