旬の味 ― 春の摘み草
「通俗史」には、雑菜・磯菜などを摘むこととしているが、春の野に食用となるべき若菜を摘むことは東西ともに古くからされたらしく、セリ、ミツバ、ツクシ、タンポポ、ヨメナ、ヨモギなど、萌え出す草を摘んで一日の行楽とし、一箇団欒の食卓に、種々の料理を楽しむのは、今はすたれてしまったが、幼き頃の郷愁として、今も私の胸に残っている。
●セリ
早春第1の香味として、春の七種の首座を占める。セリは、一つ所に繁りせまりあう。せまりのまが、中略されて、セリとなったとか、一つ所に競(せ)り合って生ずるからセリというとかいわれている。
セリは、根白草とかつみまし草ともいわれているが、根ぜり・シリバ・エグ・エグナ・シリクサなどの別称がある。
5月に、にんじんの花に似た白い小さな花を開く。冬を越えて早春に萌え出て春に最もよく繁る。
徳川家には、鶴の吸い物という料理があったが、この吸い物の椀のふたの上に、根ゼリを一つ置くのが、習慣とされていた。これは鶴が根ゼリを非常に好むからということらしい。鶴の絵を描くときも根ゼリを描き添えるのが、故実になっていたようである。
セリは精気を養い、酒毒を消す効果がある。また咽喉のかわくのを治す。吐き下しを止めるのにも効があり、黄疸にもよいといわれている、その他リウマチ・神経痛にも効く。
●ツクシ
隠花植物杉菜の胞子茎がツクシで、食用には成熟前の若菜が適している。ツクシの風味は穂にある。
●ワラビ
地中に根茎を有する多年草で、早春に新葉を出す。若芽は食用にする。根茎からでんぷんをとるが、これがワラビ粉で、ワラビ餅にしたり、ワラビ糊にする。
ワラビは無毒であるが、ビタミンの吸収を害するから、連続して食べたり多食しないほうがよい。
東 雲 宣 子