老舗物語 ― 純大阪寿司 吉野

yoshino.jpg 天保12年創業。頑固なまでに大阪寿司にこだわり続けて約155年になる。

 大阪寿司の代表は言うまでもなく箱寿司である。押し型にシャリを入れて、その上に小鯛、穴子、椎茸などを並べ、軽く押して仕上げる。にぎり寿司と違って、大阪寿司はふた口、み口と分けて口に入れるので、すしめしには特に気をつけている。
「大阪寿司はめしに六分の味」と言われるくらいに、タネ以上に寿司めしの味に重きをおいている。

 昆布だしをたっぷりと含ませて、良質の米を炊く「おすもじ」でじっくりと締めて、味わえば味わう程、寿司の真味がたっぷりと味わえる。<吉野>の寿司はそんな寿司なのである。
  

 江戸前寿司のにぎったそばから食べるのと違い、店で買ったものをお土産としたり、また家に持って帰ってから食べたりしても、風味が変らないのが大阪寿司の特徴なのである。

 いうまでもなく、米は最高級。だしの昆布ももちろん厳選された最高級品とあいまって、連綿とうけつがれた伝統の味と技は、他の追従を許さない。今後も<吉野>によって、大阪寿司は守り続けられてゆくだろう。

 先代の主に「むし寿司」を目の前で説明をしがら作っていただいてご馳走になったことがある。真っ白な料理着に真っ白の前掛けをキリリと締めて、大阪寿司のことをいろいろと教えていただいた。そして自ら蒸し上げてくださった。以来、私はむし寿司のファンになってしまった。

 むし寿司は、やはり冬の間が好評で、寒くなってくると、先代から聞いたことなどを思いだし、<吉野>に足が向う。

  梶 康子