花びらのひとり言 ― 桔梗(ききょう)

200706_01.jpg わたしは桔梗のはなびらです。わたしの主人は比較的大きな花、豪華な花を好みます。そして、赤、黄、白色を好みます。でも、わたしだけは特別扱いです。わたしはいつも主人に自慢をします。

「すらりと伸びた細い茎に小さな葉をつけ、青紫色の花を咲かせ、決して豪華とはいえないけれど、きりっとした美しさがあるでしょう」

 主人は紫色の花は淋しくて切ないと常々申しております。そして、桔梗の花はもっと淋しくて切ないそうです。そうなのです。桔梗は主人が、主人の母親から受け継いだ女紋なのです。<女紋>とは、母から娘へ、その娘から娘へと、代々受け継がれてきた紋で、式服、喪服、格調の高い紋服等に染められるものだそうです。

 若い時は見向きもしなかったわたしに、興味を持ってくれるようにうなりましたのは、最近のことです。年齢を重ねてきたからでしょうか。少々意地っ張りだから、人前では淋しさなどだしませんが、わたしと二人のとき安心して本音をだします。きっとお母さんを思い出しているのでしょう。淋しさを見せるときもあります。そんなときわたしは、お母さんとの思い出の一つ一つを、わたしの花びらの一枚一枚で受け止めてあげます。わたしにはそれだけしか出来ないのです。そして元気になってくれるのを待つのです。

  梶 康子