花びらのおくり物 ― 紫陽花

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 わたしは紫陽花(あじさい)の花びら。

ユキノシタ科アジサイ属。美しい漢字をつけていただきとても喜んでおります。
 

 梅雨時のうっとしい気分を吹き飛ばすように、雨にあうと生き生きとして一層花の色が美しく冴えるわたしは、小花を集めて大きな毬のようになって、雨に打たれるととっても重たいのですが、皆様に喜んでいただこうと、懸命に頭を持ち上げて頑張っております。それだけに、「まあ 美しい」「やあ きれい」と立ち止まって感嘆されると、益々うれしくなって誇らしげに胸を張って生きがい、いいえそれもいうなら「咲きがい」を感じております。

 
 でも、お願いがあります。それは花の時期が終れば、早く摘み取って欲しいのです。色褪せたみじめな姿を何時までもさらしたくないのです。

illust18.jpg 実は、わたしはあるお屋敷から貰われてきたのです。花友達のわたしの「あるじ」が、分けてもらった小さい芽をさし芽して成長したのがわたしなのです。わたしの「あるじ」は余程嬉しかったのでしょう。以後「あるじ」は毎年、さし芽をしては自慢げに近所、知人に配り歩き、わたしの分身が沢山出来てしまいました。でも自慢するほどのことはないのです。あじさい程さし芽の楽な花はないのですから。

 2年前に元のあるじが来られて、お庭のあじさいが枯れたからと、さし芽したわたしの分身を持って帰られて、後日お庭に根付いたと電話があり、わたしの「あるじ」も喜んでいたのですが、その方は昨年の春に視力をなくされて、わたしの分身を二度と見ていただくことができなくなってしまいました。わたしの「あるじ」は、昨年はさし芽をせず、今年もしないと言っております。

梶 康子