●花に寄せて
★蠟梅(ろうばい)
あれは、もう40年も前のこと、当時郷土研究会に入会して熱心に歴史を学んでいた頃、先輩の幹部の方のお宅へ、所用があり、序でに歴史について話しこんでいた折りに、広い庭にも案内していただいた。
其の時はかなりのご高齢で、庭の手入れもできないので、「丹念に育ててきたけれど、年齢には勝てず、残念だけれど、全部取り払うことになっている」と寂しそうにいわれた。そして「今日、来て下さったのも、なにかのご縁があるのかもしれないと思うので。良ければ、好きなものを、差し上げたい」と言われた。
欲しい物は沢山あったけれど、そんな時、私の眼に止まったのが、風に香りを運ばせて、美しく咲き誇っている。蠟梅だった。丁度この時期、花の少ない折りだったのだ。
わざわざ、固くなっている土を掘り起こし、持ち帰りやすいように荷づくりをして下さった。そこまでしていただいたら「後で、家の者がいただきに来ます」と言いづらくなり、歩いて小一時間程かかるわが家まで、それなりに重い蠟梅の樹と自分の荷物を持って一生懸命に歩いた。私にとっては、非常に思い入れの深い<蠟梅>なのである。
かくしてわが家に、いついた<蠟梅>は、毎年沢山の花を咲かせ、庭一杯に香りを放ち、私を喜ばせてくれた。ご近所の皆様にもお配りして、喜んで下さった。
惟一、困ったことは、花が小さい割りに葉が大きく、花が咲く前に黄色くなって、散り始めることである。冬の冷たい風にあおられて、雨が降ろうものなら、隣家の庭にまで飛んで、へばりついているので、朝になって、大急ぎで庭に入いらせていただいて、お掃除をする。
今年になって、思いもかけず、不覚にも骨折し、入院を余儀なくされ、1か月足らずで退院したけれど、帰宅してからも、家族の世話になり、庭のことも気になりながら、放置していたが、蠟梅の葉は、嫁が、掃除をしてくれていたので安心していたけれど、なんと、お正月を過ぎても私の部屋からは、花が見えないので、恐る恐る庭へ降りてみると、蕾が一つもなくて、勿論花は咲いていない。ショックは大きかった。
今も未だ落ち込んでいる。植木屋さんに頼んで、教えてもらって、来年は何とか、花が咲くように頑張ろう。
東 雲 宣 子