春の餅菓子
春先、和菓子屋の店先を彩る餅菓子に、草餅、椿餅、桜餅等がある。
花の里心も知らず春の野にいろいろ摘める母子もちいぞ
これは草餅をつくるために、母子草を摘んでいる様子を詠んだ、平安時代の女流作家和泉式部の歌である。草餅は、ひな祭りに供えられたりして、平安の昔を偲ばせる。
椿餅は、草餅同様に歴史が長く、「源氏物語」や「宇津保物語」に<つばいもちひ」という名で出てくる。もっとも平安時代には砂糖がなかったから甘葛という一種のつた草の汁を集めて煮たものをかけた。その味もほんのりと甘い程度だったようだ。しかし、この汁が、貴重品だったこともあって、貴族の間で好まれた高級菓子だった。ちなみに小豆を使ったあんは、鎌倉時代に中国留学した禅僧が連れ帰った中国人が考え出したもの。砂糖もはじめは輸入品で、国産の砂糖が作られるようになったのは、江戸時代後半のことである。
桜餅は、江戸時代、享保年間。八代将軍吉宗が、隅田川の堤に植えた百本の桜のおかげで、花見客が増えたので、長明寺で門番をしていた男が、塩漬けの桜の葉で餅を包んで売る事を考えたという。
うぐいす餅は、うぐいすの形に似せた、春らしい餅菓子だ。お彼岸にはお団子はつきもの。
団子のルーツは、奈良時代に中国から伝わった唐菓子の一つ。団喜だという。この団喜ははじめ仏前のお供え用としい使われていた。団子が、お彼岸や葬式に多く登場するのもまた、当然といえよう。団子は時代劇などで、茶店の風景でよく登場する。「花より団子」と、いろはかるたで言われるように、庶民にとって、団子は腹のたしのもなる、最も親しみやすいお菓子だった。
★三月はひな祭りの菱餅。
ある節によれば、少彦名命が、かつて病気の者にオケラ草をとって飲ましたところ、たちまち治ったというので、その後、餅につきまぜたという。オケラは菊科に属する多年草で、林野に自生しウケラともいう。春季に萌出る幼苗を餅につきまぜる。
★五月は端午の節句の柏餅。
柏の葉で食べ物を包むという習慣は大昔よりあったそうだ。現代の柏餅がうまれたのは、宝歴<1751~63>年のころ。五月の節句に使われるようになったのは江戸時代に入ってかららしい。柏の葉は古葉が落ちない。そこから家系が絶えないという縁起で端午の節句に使われるようになったという。
★粽 ちまきを端午の節句に用いるのは、中国の故事からという。
東 雲 宣 子