●老舗と私   御昆布司 小倉屋山本<昆布>

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 大阪新町橋ほとりに、初代山本利助が<小倉屋山本>の「のれん」をかかげたのが、嘉永元年(1848)今日まで常に原藻の精選と独自の加工法に心を砕き、何物にも替えがたい伝統によって、時代のニーズに敏感で、時流にそって、新しい味を各種の逸品としてうみだしている。
 ▲宮内庁御用達 ▲天覧・台覧 ▲農林大臣賞 ▲日本農林漁業振興会会長賞等、再々の受賞に輝いている。
                            
★ 大阪の代表的名産は先ず塩昆布。なかでも創業以来約173年の老舗<小倉屋山本>は、昔ながらの塩昆布をつくり続け、品質の優秀さは定評がある。中でも「えびすめ」は、人をして、美味しすぎると言わしめた程の美味しさである。
 昆布はアイヌ語で、海藻のこと。北海道道南の最高級の昆布を選りすぐって煮込み、副材料も吟味し、古くから伝わった方法で仕上げた塩昆布は、まさに逸品である。
 表面についている粉も、すっかり馴染みになって、格調の高い風格は、昆布の中の昆布とまでいわれている。いわば昆布の王様とでもいうところだろう。
                             
 私も初めて「えびすめ」を見た時、表面についている粉に驚いたが、口にしたとたんに、今までの昆布の概念を覆したような衝撃を受けた。
 それというのも、若い頃勤務していた会社の社長や重役たちが、本社から出張してきて帰る時に必ず、ほかの大阪名物と共に「えびすめ」がお土産として入っているのである。それも買いに行かされるのが、新入の女子社員で、私の後は暫く女子社員の入社がなく、ずっと私の役になっていた。
 始めのうちは、不満に思っていたが、慣れてくると、それまで老舗で買い物をする機会もあまりなかったので、いつの間にか段々楽しくなってきて、進んで、買い物を引きうけるようになった。然し、疑問はいつもあった。わざわざ昆布を買いに行かなくても、東京にも昆布はあるではないか? 始めて「えびすめ」を食べた時にやっとこの疑問が解けたのであった。
 一口めに感じた爽やかな味わい。何気なく食べていた昆布がこんなに美味しいものだったのだ。昆布が、副食のわき役から、いきなり主役に躍り出たような感動がよぎった。これこそ大阪名物の代表だからこそ、重役達が、お土産に持って帰るのだなと理解した。
 以前に東京へ行った時に<小倉屋山本>の東京店に立ち寄ったことがある。先客がおられたので、床几に腰かけて待っていたら年配の女性店員が<こんぶ茶>を奨めてくれた。
 <梅こんぶ茶>といって、吟味した材料を使って、昆布の旨味に梅肉のほのかな味と香りを加えて、香味豊かな、アルカリ性に仕上がっている。
 熱い<梅こんぶ茶>を、涼しい風に当たりながら、いただいて、石灯籠のある坪庭を眺めていると不思議に気持ちが落ち着いてくる。店を訪れてくる客も、雰囲気を楽しんでいるように思える。これで、東京の人達も「えびすめ」はじめ大阪の塩昆布が、いつでも買えるんだと、ふと、会社時代のことを懐かしく思い出したりしたりした。
                                   
▲伝統の技・伝統の味に、海の幸・山の幸を確かな味覚で、吟味し、昔ながらの技で仕上げた上品な品々の詰め合わせは、お酒の肴に、膳の彩りに、醸し出す風味がよく合う。
 豊かな気分で、お茶漬けやお茶うけ、お弁当に、またお椀に2~3枚浮かべて風雅な箸洗いにと、色々楽しめるのが嬉しい。お土産に、内祝いに、進物用にと調法している。
                                     
▲知人に相談された時は、<えびすめ>の他に、内祝い、披露宴の引き出物等の御祝儀物として、贈る人の真心を貴品高く伝える「詰め合わせセット」「山出し昆布」「太白とろろ昆布」「太白おぼろ昆布」「こんぶ茶」等をお奨めしている。        
                                       梶 康子