●老舗と私
★小倉屋・をぐら昆布
昆布は喜ぶに通じ祝い事の引き出物によく使われている。お正月料理をはじめ、縁起物として結婚式の結納用に「子生婦」として、丈夫な子どもが生まれるようにとの願いが込められていた。
親しくさせていただいていたお方が、永年の功労で文化の日に勲章を受章された。ささやかなお祝いをさせていただいたが、思いがけなく祝賀の会に招かれ、引き出物としていただいたのが、小倉屋の<山だし昆布「波の広葉」>であった。杉箱に入れられ、どっしりとした風格があって、何故かすぐには使ってしまうのが惜しいような気がして、数日眺めていたが、美味し物は早くいただいたほうがいいだろうと、思いなおし使うことにした。
毎朝の味噌汁はもちろん、うどんのおつゆ、鍋物、湯豆腐、おでんのお出し、一番だしだけに使うのはもったいなくて、二番出しにも使って、後はさっと洗って、干してまとめておいたものを四角に切って、コトコト、コトコト気長に煮込んで、味付けし、自家製の<塩昆布>が出来上がる。毎日の食卓を賑わし、お弁当の一品として便利に重宝する。
主人は感心しながら「気が短いのに、よくそんな気の長いことができるのだなー」私は笑いながら「覚悟しないと出来ないよ」と答えたものだった。
昆布と対話するような気持ちで向き合い、根よく見つめ、水分を切らさないように多めにし、焦げつかさないように気を付けながら、とろ火で軟らかく長時間煮込む。昆布の旨味が充分にあるので、醬油、塩は少しで間に会う。以前「これは貴重な塩昆布よ」といただいた<小倉屋>の塩昆布の軟らかさ、美味しさを思い出しながら、及ばぬまでも少しでも近づこうと努力して、やっとわが家の塩昆布が出来上がるのである。家人に喜ばれ、お裾わけした知人たちに喜ばれると、また、さしあげてしまう。あんなに苦労して煮込んだこともすっかり忘れてしまうのである。
昆布には、日本人に不足しがちなカルシウム分や甲状腺ホルモンに不可欠なヨード分が多く含まれる。<小倉屋>はひたすらに昆布をつくり続けてきた。伝統に輝く重厚な味、たゆまなく研鑽された信頼の技術、時代のニーズに反応する柔軟性。全てうまくマッチして、昆布の旨さを出しつくしている。
<小倉屋>が誇る「汐富貴」はこれらを結集してできた逸品で、ある人に「まさに昆布の芸術品」であると言わしめた。贈答品として最適である。
若輩にして、甘辛のれん会の伝統ある<のれん>誌の編集の大役を仰せつかり、西も東も解らないまま、総会に出席させていただくことになり、緊張している私に優しく話しかけてくださったのが、隣に座られた<小倉屋>の奥様の池上淳子さんだった。
甘辛のれん会の社長さんといえば、昔でいえば、蒼蒼たる老舗の旦那様方で、そんな中で、小さくなっている私の傍に座りながら「女は女同志気楽にしましょう」と気さくに声をかけ、総会の後の懇親会で、色々、甘辛のれん会のことを教えて下さり、大げさに例えるならば、地獄で仏様に会って助けていただいたと言えるほど、有難い方に思えた。
其の時もいろんな役職についておられたが、今は、小倉屋株式会社代表取締役副社長、大阪商工会議所常議員として、活躍しておられる。ふところを広く感じさせる、心の大きさは私がいつも尊敬するところで、親身にお話される一言一言が私にとって、大きなものとなり、私を成長させていただいたような気がする。
新型ウイルス・コロナの影響で、大阪ミナミへ出て行く事もできず、総会も昨年と今年も無く、暫くお会いできないのがとても残念である。