●ちょっといい話・されど大きな喜び

★梅雨の時のこと。私は新型ウイルス・コロナ時の運動不足を補うため、午後4時ごろからウオーキングするのを習慣としていた。其の日も少し曇ってきたが、つい遠出をしてしまい、ひき返しだして少し経つと、ポツリポツリと雨がふり降りだしてきた。わが家を目指して、近くまで来た時は、雨は本格的に降ってきた。急いで歩いてきて、初めは聞こえなかったが、雨音に混じって人の声がするので、振り返ってみると、後方で一人の女性が大声で叫びながら、私の方に傘を降りかざして走ってくるので、何事だろうと耳をこらして、聞いていると、「どなたか知りませんが、この傘を貸してあげましょう。私の家は、すぐそこなので、どうぞこの傘を使って下さい。傘は返してくれなくてもいいのですよ」
 その時は、すでに私自身はずぶぬれの状態だったので、傘は貸していただかなくても、いいのだけれど、見も知らない人間に大声を出して、追いかけてまで、声をかけて下さるご好意に対して、とても嬉しく、お禮を申し上げようと近づいていき、感謝の意を述べながらよくよく見ると、同じお寺の檀家のAさんだった。
 お互いにマスクをしていた為、見わけがつかなかったのである。毎年末には、報恩講の講話をともに拝聴し、一年一度のお寺の仏具の<みがきもの>の会場で、顔を合わせるお知り合いだったのである。

 
Aさんとはその以前にもお会いしていて、昨年骨折して退院してからも、暫くのベッドの上の生活の後、やっと杖で歩けるようになり、家の中で、歩行訓練をして、少しは自信も出来たので、歩いて300mぐらいの所に整骨院があり、マッサージに通うことにして、大阪市内とちがって、わが家の周辺では、3時前後頃になると人も車も少なくなるので、整骨院の昼からの診療が3時だから、3時に予約をお願いし、見計らって、たった300mとはいえ道路を挟んでのことで、信号のない横断歩道を渡らねばならない。そのため2時30分過ぎに家を出る段取りにしいていた。
 さて、初日の日、横断歩道まで来たら、北の方から5,6台の車が走ってくるので、それらが、行ってからにしようと立ち止まっていると、先頭の車が止まって手で「GO」のサインをしてくれた。私としては、ゆっくりと渡りたいので、「どうぞ」の身ぶりをしたら、また「GO」のサインを出したので、会釈をして渡り始めた。心は焦るが、もう転倒は出来ない。杖を頼りに一歩一歩踏みしめて、普通の人の2倍も3倍も待たせたかと思う。渡り終わって深々とお禮をしたら、「気イ付けて行きや」と手をふって、去って行った。寒い季節なのに全身汗まみれ、他人の優しさに感動で涙がでてきて暫く歩けなかった。
 その時前方から走ってきて「まさか元気な貴女がこんなことに」と、絶句し、事情を聴いて慰めてくれた。そして接骨院へ入るまで見守ってくれた。Aさんは「ウオーキング出来るほど、良くなられて、本当に良かったです」わがことのように心から喜んで下さった。今回のケガで、家族、友人、多くの見知らぬ人々の愛を頂いた。ただ感謝             葛城 陽子