●老舗と私 松前屋<昆布>
子ども達のお弁当をこしらえていた頃の、あの朝の忙しさを時々懐かしく思い出す時がある。海苔巻きのおむすび、卵焼き、蒲鉾やウインナーをベースに肉を焼いたり、甘辛く煮たり、天ぷらや、フライなどを日替わりにして、野菜も忘れずに楽しみながらの弁当づくりであった。必ず入れるのは<松前屋>のゴマ入り短冊昆布で、短冊に切ってあるので、食べ安く、味も辛くなく、ゴマの香りも芳しい。残さず食べてくれていた。
以前は、計り売りもしていたので、必要な分だけ求めることができて、いつも新鮮なもものを用いることが出来た。郊外に住んでいるので、用事があったり、体調が悪かったりで買い置きが無くなったりした時に、止む無く、頂き物で置いてあった塩昆布で間に合わせたら「今日の昆布は、いつもの松前屋の昆布と違うかったネ」と言う。
私は子供のうちから、色々な味に馴染ませた方がいいかなとも思うが、主人は、「子どものうちに、しっかりと<本もん>の味を覚えさせておいたほうが良い」と言う。今の私は、嫁の用意してくれた、お弁当を持って、時折り出かけることがある。嫁も気を使ってくれて、好みの塩昆布を添えてくれる。つくづく思うのだが、自分が作るのでなく、私の為に作ってくれたお弁当は、本当に美味しいものである。
最近は、<松前屋>のポイントを貯めるのを楽しみにしている。ポイントカードにハンコが全部、埋まれば袋入りの昆布が交換して戴けるので、それは、親しくしているお友達に順番にプレゼントすることにしている。友達たちもだんだん高齢化してきて、大阪市内へ買い物にいくのが、足が遠のき、「やっぱり老舗のお品は、素晴らしいですね。違いますね」と喜んで下さる。その言葉が嬉しくて、私はせっせとポイントを貯めている。
店員さんのお一人は、時々顔を見せる私を覚えていてくれて、季節の品を教えてくれ、私もそれも楽しみで、早い目に、季節の移ろいを感じさせてくれるので。足を運ぶのも苦にならず、日々を追われるように、過ごしていることを感じさせてくれる、買うつもりはなくとも、大阪へ出て行けば、<松前屋>の売り場へ行きその店員さんが、居れば、立ち止まってしまう。
雨が降りそうだったら、容易のビニールカバーをかぶせて下さる。外の様子が、デパートから流されているのかと思っていたが、他店で買い物をしても、カバーをしてくれないところを見ると、<松前屋>の店員さんの心づかいなのだろう。
梶 康子