のれん31,1,2,月号 春を待つ
春は摘み草。年齢を重ね、いくつになっても春は待ち遠おしい。
幼少の頃、お友達と土筆採りに夢中になって、だんだん家から遠くまで行ってしまい、日暮れに気付いて大急ぎで帰ってきたら、家族達が大騒ぎをして探していたところで、叱られたことが、妙に懐かしく思い出される。今は母も、その友も亡い。
●よもぎ 山野に最も普通に見られる。キク科の多年性草木。葉は羽状に裂け、表は深緑色で、裏面に白色の綿毛を生じ、一種の香気がある。別に、モグサ、サンモグサ、モ千草の名がある。ヨモギはこの草が、もえいずるという意味で、さしモグサのさしは、「おキュウ」をすえるという意である。
江州の伊吹山が古来有名な産地で、旧暦の五月五日に採ったものが一番良いとされてきた。「年中定例記」「日本歳時記」「本草食鑑」にもモチグサの名は見え、三月三日の節句に用いた。これはよもぎに邪気を払う力があって、食すれば、寿命が延びるという中国の思想からきている。古来から薬効の多い草である。
●母子草。一名餅よもぎ。ハハコを訛ってホウコともいう、キク科に属する越年草で、春の七草のうちに、オギョウ(御行)とあるのが、それで、今は殆ど使われていない。「文徳実録」(851~856)に「田野に草あり。俗に母子草と名づく。二月初め茎葉を生じ、三月三日婦女これを採ってついて餅とする。伝えて歳時となる」とあって当時、雛祭りの草餅に、これを使用していたことがわかる。
風流児、在原業平の二代といわれる藤原実方(998没)が勅命で歌枕を見よとて陸奥への途次、下野の伊吹山を望んで、「かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな 喪ゆる思ひを」と詠んだのが、後の百人一首に選ばれている。
さしも草は、今のヨモギで、これを餅に搗き混ぜたのは。東国の方が早いかもしれず、近畿西国はずっと後で母子草を用いて餅ヨモギと称していたという。
●蕗(ふき)は古名「ふふき」が、つまったもの。原産地は樺太・千島で、早くから日本に伝来した。
●よめな 和名よめがはぎ。キク科の多年草で、山野、路傍に自生する。春に芽を出し時、よめなという。初秋の頃薄紫の花を開く。それを野菊という。浸し物、和え物、汁の実にしても良い。
●わらびはウラボシ科の多年草で、地中に根茎を有し、早春頃から新葉を出す。若芽を食べる。根茎からデンプンをとるが、それをわらび粉にする。
昔の人達は、折々の季節を楽しみ生活の中に取り入れて暮らしていたが、今の生活のなかから、すこしずつ影を潜めているように思えてならない。 葛 城 陽 子