老舗歳時記  菱富。うなぎ

WS000001創業明治中頃。食通が、行き交う大阪・宗衛門町の一角で、以来、鰻一筋, 約120年にも
亘る歴史のもとに、関東・江戸風かば焼きを看板として、東西を問わず、関西の人々にも馴染まれてきた。

 古い<のれん>に培われた伝統の技と味。そして、変わらぬ暖かいおもてなしの心。
蒲焼の真価は「たれ」にある。秘伝の「たれ」は、創業以来、一度として絶やすことなく、受け継がれてきたもので、時代が目まぐるしくどう変わろうが、これからも守られていくだろう。

                 
 江戸風の蒲焼は、焼く途中で、蒸し器で蒸して、タレをかけてしあげてあるので、柔らかい。江戸は武士の町だったので、腹を切るのを嫌って、タブーとされていたので、脊開きに、大阪風は、町人の町として、栄えてきたので、そんなことは、気にせず腹開きにする。
大阪は、庶民の町だから、何かにつけて「まむしでも食べよう」と、極く気軽に口にしていたが、<菱富>は、うなぎ料理を格調のある、堂々とした高級料理に仕立てあげた。その為に大阪にあって、なおも江戸風をしっかりと守り続け、関西の食通に愛され、多くの顧客に贔屓にされている。
                 

風格のある、黒塀にめぐらされた建物は、惜しくも姿をけし、平成8年に同場所に現在の店が新築され、今では、すっかり馴染まれている。たしかに、以前の店は、いかにも高級料亭という感じで、入りづらかったが、新しい店は、気軽に入り易い。
                  
★1階は手軽に昼食などがたのしめるテーブル席。
★2階は、少人数の会食に最適の純和風の粋な小部屋。くつろぎのひとときを演出する憩いの食空間。各種会合用の広々とした座敷もある。
大阪の都心とは思えない、落ち着いた雰囲気で、なごやかな「食」を堪能していただくための<おもてなし>の心使いが各所に感じられる。
         
以前、名古屋へ所用があって、出かけた折、次男が「名古屋へ行くのなら、やはり名物の(ひつまぶし)を食べてみたら・・・」とわざわざ有名店の地図まで書いて教えてくれたが、そのつもりで、そのお店まで行ったのだが、ふと、「同じ鰻を食べるのなら<菱富>の鰻が食べたい」と、気が変わり、帰りにデパートで<菱富>の鰻をお土産にしたことがあった。「<菱富>の鰻なら、何時でも買えるのに」と次男は笑っていたが、やはり馴染みの味だから、安心して食べられるのが、そういうことになってしまったということだろう。   梶 康子