季節の真味 ネギ

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ユリ科に属する多年生草木で、別名をメブカ、ネネ、ウツボグサともいう。女房言葉で、「ヒトモジ」といった。古名が「キ」で、日本書紀には「岐」と記されている。因みにネギの「ヒトモジ」に対してニラは「二文字・フタモジ」と呼ばれていた。

ネギの原産はシベリア地方といわれ、西部中国に葱嶺(中央アジア・パモール高原の中国名)という山脈があるが、ここが中国ネギの原産地かとも言われている。

ヨーロッパでは16世紀~17世紀以来栽培されているが日本のように日常的でない。アメリカでも19世紀初めにその名が現れているという程度らしい。中国では、周の時代に「本白く末蒼し」という記録があるくらいだから、3000年来用いられたらしい。

わが国では、古くから栽培されていて<日本書紀>に「秋葱・あきき」の記載があり、天皇即位礼の大嘗会(だいじょうえ)に神饌の一つとして供えられ、中国同様日本でもネギは吉例に用いられた。
特殊な臭気はニンニクなどと同じく、一種の揮性硫化分から発するのだが、いわゆる<五辛・ごしん>のうちで、むしろ軟性に属するので、早くから一般に常用されてきた。
聖武天皇の天平7(725)年、京畿に天然痘が流行した際、ネギを食用して効果があったという記録もある。ネギの硫化分は、ビタミンB1の吸収を抑え、消化液の分泌を盛んにして食欲を増す。ネギを薬味として用いるのは、すばらしい先人の知恵である。
ネギの蒼い部分は、ビタミンCが多く、カロチンもあって、栄養に秀れている。関西のネギは蒼い部分が食べられて理想的であるが、関東のネギは蒼い部分が、かたくて食べられない。

幕末の頃、日本に住んでいた南蛮人<ポルトガル人・イスパニア人>などは、健康を維持するために、毎日ネギを食べていたらしい。大量にネギを食べる南蛮人のことを見て、日本人は、ネギを<なんばん>というようになった。蕎麦屋さんで、「かもなんばん」というのは、鴨肉<変わりに鶏肉>とネギが入っている」<かもねぎ>
のことだったのである。
 獣肉のタンパク質は、他のタンパク質よりも、分子の結合状態が強固だから、これを破壊して消化しやすくするのに、ネギのもつ成分が最も適しているのである。
                              東 雲 宣 子