花物語 ― 南天<なんてん>

nanten.jpg アヤメ科アヤメ属。原産地は中国、朝鮮半島、日本。緑の葉の間から紫色の花を咲かせる。気高く美しい。四季咲きもあり初冬までみられる。花色は白に紫の点ぼかし、紫に白の縁取り、白、などである。約50の園芸品種があるとされている。
 
 アヤメ属には美しいものが多く、アヤメ、日扇アヤメ、杜若、花菖蒲などがあるが、このうち美術で最も早くから多く取り入れられたのが、杜若だといわれている。江戸時代の尾形光琳の作品は有名で、国宝とされている。金地に緑青群青の杜若の群生を描いたもので、これは「伊勢物語」の業平東下りの途中、三河八つ橋で杜若の美しさを眺める様子を描いたものである。

 我が家の南天は実が赤くなりはじめると、近くの御陵さんの森から小鳥が食べにきて、気がついたら殆ど無くなっていて、失望したりしていたが、近頃は、生花用に数本切って後はどうぞという余裕で、小鳥はどのようにして啄むのか一度でいいから見てみたいものだと、時々観察しているが、未だにその機会に出会っていない。時々電線に止まって満足げにさえずっているように見えるのは、南天のお食事の後なのだろうか? 勝手な想像をして楽しんでいる。

 南天は、硬くてもろいため、枝はためにくいし、油断するとすぐに折れてしまう。だから南天の木を切る時に、自然のままで活けられるように、姿の良いのを選ばないと失敗してしまう。
 傘のようになっている葉を体裁よく段状に整えてゆく。兎に角、小葉が乱雑に重なっているので、すっきりとさせる。枝は奇数にする。

 色々なことを思いだしながら、活けた南天を眺めていると、娘時代に通った生花教室のことが思い出されてきて、しばし座りこむ。お花の先生は言葉は優しいが出来るまで根気よく指導する。

 そういえば、南天の枝ぶりをうまく活けられなくていじくっているうちに、南天の実が落ちて他の人より見栄えが悪く、落ちこんでいる私に、先生が最初に講義されたときに見本にされたものをそっと横に置いて下さったことや、帰り道尽きぬ話に時を過ごしたお花友達のこと。         
 今はどうしておられるでしょうか。
 
     梶  康 子
 
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