旬の味 ― 精進料理
「暑さ寒さも彼岸まで」昔から人々は彼岸を待ちつづけた。
寒さに耐えて春の彼岸を待ち、暑さに耐えて秋の彼岸を待つ。
所謂仏教において「生死を以って此岸とし、涅槃を彼岸とす」とあり、祖先のみたまをまつり、精進料理をつくった。
精進料理とは、魚鳥や獣類の殺生を忌んで、野菜類や穀類を使って料理したもののことをいう。もともと精神修養の意味が「美食を戒めて素食するのが精進」となり、仏教徒の食生活は動物性を避けて、植物性を主とした為、ナマグサを用いない調理のみが精進料理とよばれるようになった。
一方、釈迦牟尼が、いわゆる成道して下山して飢餓状態の時、村娘の捧げた供養により、心身を回復したのは動物性の乳であったという。仏教でいう五味のうち「醍醐」は、現在のチーズに当たるというのも、仏教自体の「精進」が、動物性が必ずしもいけないというのでもないのがうかがわれる。
越前に永平寺を開いた道元は日本的精進料理の中興といわれている。調理技術は当時留学した宋からの伝習だが、これを日本の国に適応させいまも「永平流」として伝承されている。
<福井永平寺の一汁一菜主義> 永平寺は食事に関する戒律が非常に厳しい。客膳には沢山のご馳走が出るが、雲水たちは「応量器」という塗り物の鉢を広げて、朝食にはカユ飯と汁と香のものという。
江戸時代の中期に渡来して宇治に万福寺を開いた隠元以来、代々の山王が、帰化僧であったから、祖国の「普茶」を伝えてきた。
<宇治万福寺の普茶料理> 中国料理に近いもので、一つの鉢に盛って出す。一器混食でみんなで箸を入れ、小皿に取り分けて食べる。
その他、真宗に伝わる豆腐を材料に使った茶碗豆腐。という精進料理等がある。
東雲 宣子