老舗物語 ― 新茶

200706_03.jpg  夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉が茂る 
    あれに見えるは茶摘みじゃないか あかねだすきに 菅の笠 

 森羅万象、緑あふれる新緑の季節は新茶の季節でもあります。

 新茶の頃になると、どうしてこのように心が弾むのか。
 口ほどでもないのに「毎日がご多忙ですね」と他人に言われると、自分自身も「そうなんだどうしてこんなに忙しいのか」と思ってしまい、気持の余裕を無くしてしまう。

 そんな時、訪問先で「新茶でございます」と誇らしげに、つつましげに出して頂いたときは、日頃失いかけていた心のゆとりを取り戻すことが出きる。一服のお茶に心癒されるものである。
 昔から初物を食べると寿命が延びると言われているが、お茶に限らず、野のもの、山のもの、畑のもの、そして海のもの、全てのものが、冬の間、大地に抱かれ、あるいは大海に抱かれて、寒さに耐え、天地の恵みをしっかりと受け止めて、我々に新しい生命力を吹き込んでくれるからであろう。

 新茶の嬉しさは、新茶にはなんといっても、特有の爽やかな香りにある。
他家で新茶を頂いた帰りは、やはり、大阪・平野町にある甘辛のれん会加盟の<先春園>に寄り道をして、新茶を購入してしまう。そして、ターミナルのデパートでお茶うけの生菓子を求める。これも楽しみのうちの一つであり、鶴屋八幡・ちもと・大阪の駿河屋・長崎堂と、いずれも<甘辛のれん会>の老舗巡りをして品定めのひとときを楽しむ。

 昭和30年頃、私が会社に勤めていた頃、得意先のお客様が「御社のお茶は美味しいですね。若いお嬢さんがお上手に入れてくださるからですね。とても評判がいいですよ」と褒めていただいたが、実際はそうではなくて、お茶そのものが美味しかったのである。電話で注文すると、当時の丁稚さんが届けてくれたものだ。

 いつもは有り合わせのお茶で過ごして居るが、寛ぎたいとき<先春園>のお茶をやたらに飲みたくなるときがある。