伝統の味覚 ― 茶
夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉は繁る
あれに見えるは茶摘みじゃないか あかねだすきに菅の笠
5月8日は八十八夜。茶摘みの頃になると自然にこの歌が口をついてついくちずさむ。いつか行った体験茶摘みのあの身体を包みこむような香りが、蘇ってくる。
東洋を原産地とする茶が、ヨーロッパに伝わったのは明らかでないが、16世紀には喫茶されており、フランス・イギリス、ロシアの順で17世紀以後、アメリカは、新興国だったから送れて18世紀以後からだと言う。近年緑茶も嗜好されるけれど大部分の需要は紅茶である。日本の場合は製茶は殆ど緑茶で、最も良質のものは老木から採った濃茶用の挽き茶といわれ、宇治の銘園で200年以上の古木を擁するのも珍しくないと言う。
緑茶の最高級品は玉露で、次は普通茶の湯用の挽茶、一般に煎茶として用いられる葉茶、大衆的番茶の順になっているが、いずれも製品に等差のあるのは言うまでも無い。
挽茶の優良品は玉露とほとんど同様の成分を有し、粉末にして全部喫飲することにより用法としては理想的といわれ、愛用者みずから茶臼で挽いたのでないと意味がないというくらいだが、粉末にして市販するものには往々にして次品あるいは擬似品が混入されることがあったりして等級を玉露の次にされたという説もある。
大阪市中央区平野町に本店を置く「先春園」は甘辛のれん会のメンバーで、創業以来変ることなき茶の道一筋にのれんを守り続け、今日の信用を得ている。
梶 康子