花びらのひとり言 ― 桜

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 わたしは1枚の花びら。何時も皆様と一緒にいたいです。嬉しいときは同じように喜び、淋しいときや悲しいときには慰めてください。

 花びらは1枚1枚が集まって一重、八重の花となり、色々な花となります。わたしも花びらの仲間をたくさん集めて、四季折々美しい花を咲かせたいと思っております。

 春は花が真っ盛りです。わたしはどの花になろうかなと迷いましたが、やはり春の花の代表は桜の花です。桜の花びらになりましょう。では、花びらのひとり言を聞いて下さい。

 爛漫と咲き誇る桜の樹の下で、様々な人生模様が展開されているのです。

◎ 昨年の桜もそろそろ終りの頃、真っ暗な夜空にぼんぼりの灯が、名残惜しそうに散り急ぐ花びらを浮かび上がらせ、葉桜の美しい緑を照らし、得もいえぬ風情のただよう幻想的な夜でした。こんな事がありました。中年のご夫婦の会話です。

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 「この桜が好きで、毎年桜を観に来たけれど、わたしはもう今年で桜の見納めだと思います.。もっと生きたい、もう少しだけでも生きたい。死にたくない。死ぬのがコワイ」

 奥さんの涙声にご主人は色々励ましておられる様子ですが、奥さんはどうやらガンを患って、しかも病気は大分進行しているらしい。話題は益々落ちこんでいきます。

 聞くともなしに耳に入ったのであろう。少し離れた所で静かに散りゆく花を観ていた老夫婦が、さりげなく中年の夫婦に声をかけた。

「ご覧なさい。1本の樹からこんなに無数の花びらが舞い散るのですよ。ものすごいエネルギーを感じませんか? 病は気からというじゃないですか。精神力で、がんばっている人も多く居られますよ。

 今、あなた方に、桜がものすごいエネルギーの花びらとなって、降り注いでいるではありませんか。わたし達二人はこのエネルギーをいただく為に毎年、花びらの散るこの時季に来るのですよ。おかげ様で今年もこうしてエメルギーをいただけました。

 お互いにがんばりましょうよ。そして、来年もまた、お会い出来るようにがんばりましょうよ」

 両夫婦は握手をして別れられたが、今年もきっと来て下さるように、わたしも、ただ只管待っております。

梶 康子