老舗物語 ― 御菓子司 鶴屋八幡
社是<随尊命調進 応貴旨精製>(ご満足のゆく品物を真心込めてお作りする)
約三百年前の元禄の頃、大阪高麗橋に店を構え、数々の文献に残るほど隆盛を極めた有名老舗菓子店「虎屋伊織」に永年奉公をしていた今中伊八<鶴屋八幡初代>が、主家の事情により、これよりは我家製法を後の世に守り伝えよとの説諭や贔屓筋から、たっての奨めも有り伝統の火を消すまいと文久三年職人達と共に同じく高麗橋に暖簾を掲げた。
鶴屋八幡の屋号は、初代の自宅裏に鶴が巣を作った瑞祥と、開業に際し虎屋伊織に原材料を納めていた八幡屋に支援を受けた恩を忘れまいとして八幡と名づけられた。
創業より多くの人々に支えられてきた<鶴屋八幡>はそれだけに人と人、そして人と和菓子の出会いを大切に精進を続けている。
鶴屋八幡のお菓子をお土産に持っていけば必ず喜びの声がかかってくる。そこから話題もはずみ、楽しいひとときがある。
伝統の羊羹はもとより、四季折々の季節にちなんだ和菓子は、室町の頃より、喫茶の風習と共に育まれ、江戸時代に成熟期を迎え今日に受け継がれている。茶道の関係者はもとより、一般の愛好家の皆様に時の移ろいを楽しませる。
お客様のお好みに合わせて別注品も承っている。
1月「迎春用」「年賀来客用」「初釜」「花びらもち」より始まり、季節を追って、
春「さくらもち」 5月「ちまき」 夏「水羊羹」涼しげな「葛菓子」
春・秋の彼岸の季節には、「牡丹餅」や「萩餅」
季節のたよりを和菓子に託して………。
鶴屋八幡ならではの、最中<百楽>、鶏卵そうめん、お干菓子、その他枚挙に暇がない。
どれもが、四季おりおりに、大切に大切に、丁寧につくられた思いやりが、じーんと伝わってくる味わいがある。
梶 康子