老舗物語 ― すし萬
1653年浪速七郎さ左エ門が魚屋を開業し、副業に江鮒の雀鮨を売ってから約350年もの伝統を培い<のれん>を守ってきた。
1781年京都の禁裏へ献じることになり、八代萬助が、小鯛雀鮨を調達し、好評を得たので、雀鮨専門店となり、以来、ご用達雀鮨を世襲している。
すしの生命はお米である。「飯に六部の味」といわれるくらいにお米の品質を問われるが、すし萬では吟味に吟味を重ねた、すしに最適のお米を使用している。
まろやかなハリのあるすし萬のすしご飯は定評があり・他のすしに張られない。類似品の出てこない卓越したすしご飯は、他者に真似のできない、真似のしようのない創意と工夫がなされているからである。
小鯛雀すしの材料は、瀬戸内海の小鯛、吟味された醸造酢、全体を包んでいる昆布は北海道の最高級品。昔ながらの伝統が、今日の美味につながっている。
ある食通にいみじくもいわせた「すし飯の最高峰」。わたくしも始めて小鯛雀鮨を口にした時得もいえぬ、すし萬のすし飯の美味しさに感動したのを覚えている。光沢のある、まったりとした重厚さ、すぐに食べるのが惜しいような品格を感じたものである。
梶 康子