のれん紹介 総本家小鯛雀鮨すし萬
【のれんの歴史】
すし萬の起源は、初代・河内屋長兵衛が承応2年(1653)頃に現在の中央区高麗橋4丁目付近で魚屋を開業したことにはじまる。のちに摂州西成郡上福島村の梅田橋付近(現、北区堂島3丁目)に雀鮨専門店「すし萬」を出店。なお、梅田橋付近は、花街である北の新地(曾根崎新地)の中心地として賑わっていた。また、江戸時代の前期に松江重頼によって編まれた俳諧論書『毛吹草(けふきぐさ)』には、約1000句の俳句・連歌とともに諸国の名産が列挙されているが、〈摂津〉の項目には福島村の名産として細木綿とともに雀鮨が紹介されている。さらに、雀鮨について「江鮒ナリ、腋ニ飯ヲ入タルガ雀ノゴトクフクルヽヲ以云之」とあり、「江鮒」すなわちボラの幼魚を用いた姿鮨のようなものが当時の福島村の名産としてすでに広く知られていたようである。現在でも、堂島川・土佐堀川にはボラの幼魚の大群が遡上している風景を目にすることができるが、当時、おそらく近くの堂島川などで獲れたボラを鮨にして花街の遊客などに提供していたのであろう。
天明元年(1781)には、後桜町上皇(1740~1813)への献上の栄に浴するが、宮廷に献上するに当りボラでは見苦しいということで、西宮沖の小鯛の二才物を用いて雀鮨を作り献上したところ大変な評判となり、以後、禁裏御用御鮨師を世襲する。先ほどご紹介した『毛吹草』には、西宮の名産として水鮧(えそ)・水鱧(はも)とともに小鯛が紹介されており、当時の大阪では西宮や尼崎の沖合で漁獲された新鮮で上質な小鯛が手に入りやすかった。すし萬は、以後、雀鮨専門店となり、総本家小鯛雀鮨を称するようになる。今でいうところの大阪版グルメランキングとも言える「大阪名物味ひものや玉相撲」(文政2年(1819)版行)には、「しんち 鮓万 すし」と見え、江戸時代後期には、すし萬は大阪を代表する鮨店であったことが窺い知れる。
垣貫一右衛門編「浪華の魁」(明治15年7月版行)に見える小鯛雀鮨すし萬本店の外観
旧高麗橋本店外観(大正11年(1922)より平成22年(2010)まで本店として使用)
すし萬は、皇室との関係が大変深く、皇室や公家の子弟が出家して入寺した聖護院門跡(森御殿)や同門跡が兼務した照高院(白川御殿)の御用も務めている。この点において、大阪の食文化が京都の宮廷の人々に受容され、京都の食文化に影響を与えたとも言える。
皇室に納める際に立てられた木札(左)(中)と長持にかけられた油箪(右)
明治元年および5年の明治天皇大阪行幸に際しては、御用命を受けて行在所の津村別院(北御堂)に小鯛雀鮨を献納し、以後、大膳職御用を務める。戦中戦後間もなくは、物資の統制配給により創業以来の苦難な時期を迎える。とくに、昭和17年(1942)には、当主の小倉英一氏が召集され、廃業の危機にみまわれる。しかし、昭和21年に復員し、英一氏の鋭意努力により伝統の製法が今日に継承されるに至る。現代においても昭和天皇や皇室の多くの方々が小鯛雀鮨を賞味され、とくに寛仁親王殿下は在阪のおり足しげくすし萬へ御成りになるほど小鯛雀鮨を愛されたとのことである。
【のれんへの思い】
15代目当主で同社会長の小倉宏之氏にのれんへの思いをお聞きした。
「藤本義一先生が『船場の商人は火事が起こった際に、何を置いても暖簾だけは持って逃げた。暖簾さえあれば商売は続けられ、暖簾さえあれば銀行もお金を融資してくれた』と船場商人の暖簾に対する精神を語っておられたが、300有余年にわたって船場で商いをしてきた暖簾の重みを大切にしつつ、物価高で食材等の仕入れコストも嵩む昨今であるが、敷居を高くせず、多くの方々に“ちょっとした贅沢”として広く味わっていただけるように頑張りたい」とのコメントをいただいた。これぞ、「天下の台所」を支えた船場商人の真髄であろう。
【のれん逸品】
★300有余年の伝統の味「小鯛雀鮨」
すし萬の看板商品である小鯛雀鮨は平安時代以来の伝統的な馴れずしの製法によって製造されている。そもそも、“おすしは漬ける”と言い“鮨とは魚の漬け物”とも言われ、さらに、調理場を“漬け場”と称されていた。また、鮨飯のことを江戸では“シャリ”と言われるが大阪では堂島(米穀取引所)が在ったことから“シマ”と言われるなど、大阪には独特のすし文化が存在し、その文化がすし萬において今なお継承されているのである。昨今の漁獲不良により食材確保が厳しくなりつつも、瀬戸内海産の小鯛や希少な北海道産の白板昆布など、厳選された素材と300有余年にわたって職人に受け継がれてきた技によって皇室にも愛された最上の大阪ずし「小鯛雀鮨」が今なお味わえるのである。
★新商品「大阪 阿奈古めし」
上質な穴子に、ほんのりと柚子の香りが味わいを深め、さらに絶妙なお酢加減の飯に刻み海苔、薬味の山葵や甘酢生姜に至るまで素材へのこだわりが感じられる新商品。
※お求めは下記店舗にて(取り扱い商品は店舗によって異なる場合あり)
《大阪府》
すし萬 靭本町本店:大阪市西区靭本町 2-3-7 TEL: 06-6448-0734 ※予約のみ
リーガロイヤルホテル店・阪急百貨店うめだ本店・大丸心斎橋店・高島屋大阪店・近鉄上本町店・近鉄あべの本店
《兵庫県》
芦屋・波沙鮓 (NAMISUS):芦屋市松ノ内町3-14 チェリービュウ芦屋川 1階 TEL: 0797-32-8939
芦屋大丸店・神戸ポートピアホテル店・阪急神戸店
《愛知県》
松坂屋名古屋本店・JR名古屋・高島屋店
《神奈川県》
そごう横浜店
《東京都》
紀ノ國屋インターナショナル店・西武渋谷店
※「大阪 阿奈古めし」の取り扱い店舗は、すし萬靭本町本店・阪急百貨店うめだ本店・髙島屋大阪店・近鉄あべの本店・近鉄上本町店・紀ノ国屋インターナショナル店のみ。
(文責:北上真生)





