桜の花に想う
季節の移ろいは早く、花は慌ただしく、咲いたと愛でる間もなく、あっと言う間に、夜来の雨にさらされて、散ってしまう。散ればこそ惜しまれる桜の花は、凄絶な美しさの中に、儚くも華やいだ雰囲気を醸し出し、日本人の魂を捉える。
この季節のもので、美しいもの、可愛いものに、サクラの言葉が、冠されるのは、日本人の言葉への優しさと細やかさであろう。
●サクラ鯛
鯛は、陽春に産卵の為に内海に群来する。いわゆる鯛の旬で、ウロコの色がますます美しく紅色も鮮やかになって、味もよい上に、漁獲も一番多い。鯛の習性として、冬季は大部分外海に去っているのが、春暖につられて陸地近く寄ってくるのは、繁殖の為である。繁殖に必要な栄養を具えているのである。この原則をもとに、冬の終わりから春いっぱいが旬ということになる。
近年、瀬戸内海で獲れる鯛も少なくなってきて、養殖ダイが多くなってきている。
サクラ鯛は青春期の精気みなぎるのが生命だから、賞用されるのは、産卵のやや前とし、以後は、俗にムギワラ鯛と名付けて、不味いものの代表的名詞にまでなっている。しかし、土地によっては、ムギワラ鯛を旬として待っている所もある。
●サクラえび
クルマえびに似た小型のえびで、セルゲスト科という別の種類に入れられている。半透明で淡紅色をしているので、サクラえびといわれている。また、暗夜に光るので、ヒカリえびとの名もある。産卵期は夏季で、その期間は獲るのを禁止または制限しているが、美味なのは、やはり中春から晩春までで、季節的にサクラえびといわれるに相応しい。
●サクラ餅
江戸時代に柏餅の類似品として売り出したのが、元祖で、春季桜の時期の名物となった。後には各種の菓子舗でつくるようになった。
●サクランボ
バラ科に属する落葉果樹で、ミザクラともいう。ヨーロッパ、小アジア地方の原産で、明治7~8年頃フランスまたはアメリカから移植された。
花は、白色で小さく、桜のように美しくはないけれど。果実は大きくて美味。それに見た目にとても可愛い。
生のままで食べるのが、最も一般的であるが、貯蔵品として用途は広い。
葛 城 陽 子