食べ頃
10月になると、野菜類が大地の結晶として、出まわる。
大根・人参・牛蒡・蓮根・自然薯・甘藷・馬鈴薯・里芋・八つ頭・玉葱・生姜・芋茎・うど・秋茄子・初茸・椎茸等。
松茸は香りも良いが、値もよく、庶民には全くの高嶺の花となってから久しい。以前ほど騒がれなくなってしまい、つまり、我々の生活に大した影響を、もたらさなくなってしまった。ということだろう。
それに引き換え、椎茸は、安価の上に、栄養もあると言うので、なにかにつけて、利用される。椎茸の胞子には、強力な抗ウイルス性の物質をつくる働きがあって、インフルエンザ・ガンなどによく効くというので、俄かに脚光を浴びるようになった。
10月の果物は、柿がではじめ、栗が旬となり、クルミも実を結ぶ。クルミには、カルシュームや鉄も含み、健康に良いとされている。
11月は、朝夕の味噌汁が美味しい。
味噌は古代中国の西域で発生して、朝鮮を経て日本に伝来した。大和時代の文武天皇の大宝元年(701)にすでに、味噌を管理する職員がいたと記録にある。
12月に日本人の多くが口にし、テレビのニュースにも報じられるのが、晦日ソバである。
ソバ粉を焼いたアクで、古器物をあらえば、多年の汚れも消え、金銀細工をする所では、金箔を伸ばすのにソバ粉を打ち、金銀粉が散ると、ソバ粉に吸い寄せさせて集める。あるいは、金を伸ばし、あるいは、金を寄せるので、これらの縁起をかつぎ、祝ったのが、商家の晦日ソバのはじまりである。
本来、金沢のお正月には、なくてはならないものものと、されていたものが、最近では金沢名物の観光土産として有名になってしまい、純粋な味覚とほど遠いものもあるらしい。
もう一つ金沢名物に「かぶらずし」がある。最初に口にした時どうしてこれが<すし>なのか? 不思議に思ったものだ。かぶらに切り目を入れ、ブリの薄い切り身を入れ、糀とご飯粒がまぶされている。ご飯粒は少しなのに、<すし>というのが、合点がいかなかった。そこで、金沢在住の叔母に聞いてみた。
昔、加賀百万石の時代、財政が苦しい時、殿さまが、庶民に節約令を出した。庶民は考えたあげく、贅沢品ではなく<すし>であるということにして、「かぶらずし」を考えて、庶民なりの食文化を楽しんだという。「かぶらずし」の食べ頃は、取り出してから3~4日で、ブリの臭みは全然なく、塩と糀の甘さがうまく調和して、程良い歯ごたえと、その美味さは、<食通>を喜ばせる。日が経過すると、酸味が強くなる。
葛 城 陽 子