季節のもの 蕎麦(そば)
蕎麦はタデ科の一年草で、中央アジアが原産地。シベリヤ・東アジア・インドで広く栽培されていた。
日本へ蕎麦が伝来したのは、飛鳥奈良時代とされ、はじめに東近江の琵琶湖の東、それから木曽路を通って信濃と甲斐に分布され、それ以来信州が蕎麦の名産地となった。
直立した紅色の茎は40~90cmになり、葉はハート状三角形で、夏または秋に白か淡紅色の小花が密集して咲くのが、いかにも美しい。果実は卵形で鋭い三稜があり、緑白色、乾くと黒褐色となって、果中の胚乳からそば粉を作る。
蕎麦のことを稜(ソバ)のある麦(むぎ)というのは、果実の三稜(三角)を意味している。ソバ粉を水でこねてうすくのばし、細く切ったのが、我々が食する蕎麦で、ゆでて汁につけたり、また煮込んだりして食べる。
蕎麦は、タヌキ(揚げ入り・最近では関東の影響なのだろうか?キツネ蕎麦というのを耳にする)・月見蕎麦(玉子入り)・とろろの入ったとろろ蕎麦、鴨、鶏肉の入ったかもなんばん・エビの天ぷら入りの天蕎麦・ざるにあげて、出し汁につけて食べるそば等、それぞれの具の風味と相まって美味しいが、何といっても素(す)蕎麦(かけ蕎麦)が一番美味しい。蕎麦の真骨頂は、蕎麦自身の持つ風味と出し汁にあるからである。「(かけ蕎麦)の美味しい蕎麦屋さんは、他の蕎麦も美味しい」と言われる由縁である。
お店で、かけ蕎麦を註文すると、若い者は「恥ずかしいからもっと上等を食べたら?」と言うが、私は初めてのお蕎麦屋さんに入った時は、ご挨拶代わりに、やはり具のないお蕎麦で、出し汁とお蕎麦の味を味わいたい。しかし、わざわざ(かけ蕎麦)を註文しているのに、刻んだ揚げとか、天カス(天ぷらを揚げた際にできるカス)を入れてあったりする。それでは(かけ蕎麦)を註文した意味がない。いつの頃からか、(かけ蕎麦)は我が家で楽しむことにして専ら出し汁に工夫を重ねている。
石川県金沢市は、亡夫の故郷で、幾度訪ねても懐かしく、以前立ち寄った(かけ蕎麦)の美味しかったお蕎麦屋さんに寄ってみたが、代が替っていて、(かけ蕎麦)のメニューすらなく大きな失望と寂しさを覚えた。
勿論、私も(かけ蕎麦)ばかり食べているわけでもない。揚げたてのエビ天を出してくれる店では、天蕎麦や、天ぷらざる蕎麦を、揚げを美味しく煮込んである店では、タヌキとかを楽しんでいる。
「美々卯」の薩摩卯一氏に以前教えていただいたのだが、<うどんすき>の最後にお蕎麦が出てきたので、聞いてみると、うどん出しの中へ、しゃぶしゃぶのように、お蕎麦を箸にとり、数回ゆすって食べると、煮込まれた出し汁が軽くからんで、あっさりとして、<うどんすき>でしっかり満腹になっている筈なのに、お蕎麦がするすると、お腹の中へ入っていく感じで、しかも新鮮味があり驚いたことがある。
東 雲 宣 子