大 寅(かまぼこ)
食い倒れの町大阪で、明治九年に創業。
地元大阪の「大」と、ひたすら蒲鉾創りに挑み続けた初代・小谷寅吉の「寅」をとって、<大寅>と名づけ、以来「良質の蒲鉾」を提供することを基本方針として、永い歴史の中で磨かれた本物の技と、深い味わいを老舗の伝統として受け継いだその味を育み、なお、新しい時代のニーズに応えようと日々精進している。
厳選された材料に、さらに吟味を重ね、丹精を込めて出来上がった製品は、大阪を代表する蒲鉾として高く評価され、贈答用として最適で、贈る人の人柄までが、しみじみと伝わってくるような風格をもっている。
蒲鉾は低カロリーなうえ、良質の魚カルシウムを豊富に含んでいる低脂肪なのである。その上、すりつぶした白身の魚を材料としているので、消化にとても良い。
低カロリー・高タンパクの食品として、今後も食生活をリードしていくだろう。
蒲鉾は、四季を通じて食卓をにぎわし、欠かすことのできないものとなっている。その中でも、特にお正月のおせち料理に定番で、重箱を美しく仕上げている。
今でこそ殆どのデパート・有名店街に売店があるが、昔は(昭和30年前後)大阪・戎橋の本店と、阪神甘辛のれん街ぐらいしか大寅のお店がなく、(定かでないが、私の記憶によれば、)お店の前は、黒山の人だかりで、寒い師走というのに汗をかいて買い物をしたのを覚えている。毎年のことなので、たまには他店の蒲鉾で、と姉が言ったことがあったが、母は「お正月のおせちは大寅と決まっているからダメだ」と言う。
我が家には古い習慣がまだ残っており、当時でも正月早々から、年始客があり、型の如くお酒とおせちの重箱でもてなす。大寅の蒲鉾は来客用だったのである。家の者の口に入ることは、めったになかった。汗をかいてまで買った蒲鉾が、一口も食べられないのが、悔しくてたった一切れを、つまみ食いしたときの、なんとも言えない歯ざわりと美味しさは、いまでも忘れられない。結婚式を控えた私に母が、「何でも好きな物をつくってあげましょう」と言ってくれた時、私は「大寅の蒲鉾と玉子焼き」すかさず答えた。当時タマゴも高級品だったのである。
蒲鉾の旨みは、<味>と<歯で噛んだときの弾力>にある。そのためには、伝統の秘伝と技を結集して創られた大寅の蒲鉾は、そこにあると言うだけでどっしりとした老舗の重厚さを感じさせる。
梶 康子