花物語

omoto.jpg万年青(おもと)

我が家の庭にある万年青は年代物で、35年前に現在の土地を購入した時からすでに庭に植えてあった。前住人は知人だったので、住む前から庭の様子がよく分っていた。
四季折々の樹や花も植えて庭を楽しんでおられた。敷地の真ん中の住まいは小さく、庭を大きくして草花も植えてあった。古いけれど書院造り風のたたずまいは、茶室にいるような安らいだ気分になるので、疲れたら庭に出て、花の一つ一つに語りかけるようにして時を過した。古家ながらもとても気に入っていたのである。

しかし、子どもたちも成長して手狭になり、やむを得ず建替えることになった。敷地の殆どに家を建て、住まいは大きくなったが、庭は小さくなり、おまけにどうしてもこれだけは切らずにおいておくようにと、大工さんに頼んであった機まで、翌日来てみると無残にも切り倒してあった。そしてひっそりと踏まれながらも、痛々しく残っていたのが万年青であった。

万年青の原産地は日本・中国で、ユリ科オモト属。英名はリリー オブ チャイナ。原産地が日本というのも、私のすこぶるお気に入りの所以である。
常緑多年草で、暖地の林の中に野生も見られる。観賞用の下草として多くの家の庭に植えられている。春になって、葉の中心から太く茎が出て花茎を出し、小さな淡黄色の六弁花を筒状につける。実は径1cmの球形で晩秋から冬にかけて赤く熟する。
万年青は、株が大きいので「大本・おもと」といわれていたが、常緑の葉を意味する漢名を用いるよいになった。

万年青は親葉から若葉へ、新葉へと次々と譲りつつ栄えるので、外側の古葉と内側の新葉が尽きることなく入れ替わるのが永続性の象徴。さらに新葉が成長すると、旧葉との内から翌年の新々葉になると実が出来るので、子孫存続・繁栄の象徴と見做して、婚礼や正月花などの慶事に用いられてきた。古くは老母草とも書かれていた。
長男が結婚する時に、知り合いの花屋さんが「お家のお庭の万年青を株分けして、新居の玄関の辺りに植えてあげたらとてもゲン(縁起)がよろしいですよ。益々繁盛しますよ」と教えてくれた。二男の時もそのようにした。長女の時は、先方のお姑さんが、そのようにして下さり、とても感謝したのを覚えている。

それから間もなく、前の住人が、久し振りにお見えになって、<ご子息が結婚するので、是非当家の万年青を株分けして欲しい>と申し出られ、快く承知したのはいうまでもないが、今は東京におられるので、わざわざ聞くまでもないと思うが、実が赤くなる頃になると、時々思い出すことがある。              梶 康子