食文化の伝承 ― 美味しい旬の魚・果実
9月から年末にかけての魚は、鮑・穴子・蝦・蝦蛄・帆立貝など、刺身・寿司ネタが美味くなる。帆立貝は学名をパチノペクテン・エソエンシス。蝦夷の櫛(エゾノクシ)との意味、韓名を海扇と言い、別名を扇貝、秋田貝とも言う。ほたて貝という名は、貝殻の片方が丸くふくらみ、一方は扁平なので、丸い方を舟に、平らな方を帆にして海を走ると考えられた。実際は殻の開閉や“耳”と呼ばれる二つの噴射口から海水を噴き出して移動する。
食べる部分は、貝柱とヒモで、貝柱は前後二つのうち、前のが退化して消滅し、後方の閉鎖筋だけが発達する。これが美味しい貝柱なのである。
貝殻は高さ16センチメートル、幅17センチメートルにも達し、大きな物は20センチメートルもある。日本産の貝の中でも一番大きい。東北地方から北海道に及ぶ寒海が主産地。
北海道の友人から毎年大量の帆立貝が送られてくる。最初は、貝柱の取り方がわからず、説明書を何度も読み返し、軍手を嵌めて、専用のヘラで殻をこじ開けようとするが、1度失敗すると2度と開かないぞとばかりに、しっかりと閉じきってしまって口を開けようとしない。うっかりすると指をはさまれたら、ちぎれそうなくらい強い力で締めきり恐怖さえ感じる。.薄いヘラさえ抜き取れないほどのパワーを持っている。
何度も失敗しているうちに、いともたやすく殻が開くことに気がついた。よく観察して見ると、貝柱がしっかりと殻についている根元を一挙にヘラで削ぎ落とすと、殻は容易に開いて再び閉じることはなかった。
後はひたすら食べるのみ、貝柱は生のままワサビ醤油、酢のものにして、日本酒を燗してゆっくりと頂く。苦労して調理しただけにその旨みは抜群である。
果実は梨・葡萄・無花果・柘榴・柿・みかん等、自然の恵みが豊富である。
葛城 陽子