伝統の味覚 ― 酒
白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりける 若山牧水
酒の起源は洋の東西を問わずほとんど神話から発している。エジプトではオシリスの神が穀類の酒を教えたといい、ギリシャではバッカスの神が葡萄酒の始祖だと伝えられている。もともと酒は人類の生存する所に自然発生したと思われる。
狩猟時代には果実が得やすく、果汁は自然発酵して果実酒となり、遊牧時代には畜乳を発酵させて乳酒ができた。進んで農耕時代になり、はじめて穀酒ができた。当時は麹など勿論なく、噛んで唾液で糖化し、自然に発酵させた。
素●鳴尊(すさのおのみこと)がヤマタノオロチ退治に使った酒は果実酒で、米で酒を造ったのは、木花之開耶姫(このはなのさくやひめ)と言う。
神后皇后の御歌に「このみきは、わがみきならず、くしのかみ、とこよにいます」とあるのは少彦名命(すくなひこなのみこと)を薬神とする造酒法である。
応神天皇の御製に「すずこりが、かみしみきに、われえひにけり」とあるのは、当時朝鮮から帰化した須々許理(すずこり)が良酒を献上したと、古事記にのっているのから考えて、御母子二代の間には酒はすでに醸造されており、更に麹による醸造法も渡来したのもこの頃だろうと伝えられている。<飲食辞典>より
我々は慶び事につけ、悲しみにつけ、酒を酌み交わすのが常となっている。猛暑でビールにおされ気味だった清酒も、虫の音に耳を傾けながら味わい、しみじみと人生を想い、友と語る。これからが清酒の本番が始まる。
日本酒の醸造には従来最も伝統が重んじられ、各酒造元の特徴がただの一滴の中にも各蔵元の伝統と技が醸し出されている。甘辛のれん会加盟の、日本盛・大関・菊正宗・長龍は、弛まぬ努力と、老舗の誇りをもって、技を磨き、時代のニーズに応えて、業界をリードしている。品種も多様になっているので、飲み比べご賞味いただくのも、また楽しいものである。
東雲 宣子