のれん花物語 ― 南天(なんてん)
私の主人は、兎に角赤い実のなる花木が好きで、可愛い花が咲き出すと、毎日見にきてくれます。私は主人の喜びに応えてあげたいと、一生懸命に実を赤くしようと頑張りますが、こればかりは時季が来ないと、どうにもならず、疲れてしまいます。やっと赤く色づきました。大喜びする主人に私もホット一息うれしくなります。
主人は早速、娘時代から大切にしている鋏を持ち出していとしげに切りとってくれます。そして、「この葉がおちなければいいのにねー」私は呟きました。「贅沢言わないで」自分が自覚している自分の弱点を指摘されて「来年はもう咲いてやらないわよ」。でも翌年はやっぱり一生懸命咲いて赤い実をつけるのです。
南天は日本原産の落葉低木で、暖地の山野にも見られますが、庭などによく植えられています。つややかな赤い実を連ねた円錐形の房が、立ったりなびいたりして冬の庭を華やかに彩ります。雪の日は一段と鮮やかに映えると言いますが、大阪在住の私は雪は数える程しか降りませんので、私の美しさを見せてあげることは出来ません。
南天は漢名で、南天竹を省略した花名。音が「難天」「なんをはなれて吉句てんずる心なり」に通じるところから、古くより「悪魔降伏の木」「不浄けがれを払う」めでたい木とされています。
松竹梅や万年青(おもと)と共に、お正月の祝い花に用いられことも多いのです。私は鼻高々と床の間を占拠するのです。
梶 康子