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摘み草の詩 ― よもぎ<蓬>
yomogi.jpg 君がため 春の野にいでて 若菜つむ
  わが衣手に 雪はふりつつ

    <小倉百人一首 第十五番 光孝天皇>

 春が近づくと、なんとなく野山が懐かしくなる。むせるようなそれでいて優しく包み込んでくれる大地の匂い。生きる勇気を与えてくれる森羅万象の息吹き。そして、思わず口ずさむのが上記の一首。そして、その時々の思い出。子ども時代の草と戯れた楽しい思い出。太平洋戦争の食糧難の時代に食事の足しに、ヨモギを求めて歩いた乙女の多感な胸に消えることのない悲しい思い出。結婚してからは、はしゃぎ回るわが子と時を忘れて楽しく過ごした黄金の思い出。全てが一挙に甦る。
★ヨモギ<蓬>はキク科の多年生草木で、モチグサ。花が多数咲くところからカズサキヨmpギ、またの名をモグサ、サシモグサともいう。サシモグサといえば、やはり百人一首の歌を思い浮かべる人も多いだろう。
 
 かくとだに えやはいぶきの さしも草
  さしも知らじな もゆる思ひを

     <小倉百人一首 第五十一番 藤原実方朝臣>

 さしもぐさは、ヨモギの若葉から作るモグサで、モグサは郡出して「もえいずる」の意で燃草。伊吹山は古来有名なモグサの産地で、五月五日に採ったものが一番よいとされている。

 燃える想いを伊吹山のモグサにかけて、熱く激しい想いを「さしも草 さしも知らじな」と、思い入れをリズムカルに実にすばらしく歌い上げている。ヨモギを摘みながら、ついこの歌が出てくるのもほほえましい。ヨモギの葉を摘みとって、灰汁やソーダーを使ってアク抜きをし、清水にさらしてよくしぼり、ムシロに広げて乾燥にして保存用にする。草も餅とかヨモギ団子を作る際に小出しに使うと便利。風味や香りは摘みたてが最高で、生麩にヨモギを割り込んだヨモギ麩は、懐石の汁椀に用いると、季節感を味わえる。

 ヨモギは食用になったり、灸の原料として医療に役立ったり、地方によっては五月の節句に、菖蒲と共に屋根や軒に葺いて邪気を祓うため用いられたり、古くからわれわれの生活と深い関わりを持っている。           
 
 
  梶 康子
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