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花物語 すすき
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 すすきはすくすくと立ち伸びた茎から、おおらかな円を描いて穂先をたれさせる。群生したすすきの花穂が、風に吹かれてなびいている様は見事で、秋の野山に一層風情を添え、「ものの哀れ」を感じさせる。
 すすきは、イネ科の大形多年草で、草丈1~2m。葉は細長く、茎とともに硬質で葉には鋭い鋸葉がある。すすきは私にとって、忘れえぬ深い思いがある。
 子ども達がまだ幼かった頃、ある日母が突然やって来て
「どこでもいいから、気の晴れる所へ連れてって」と言う。私もそうしてあげたいけれど、子ども達が、まだ幼くて、予告もなしに急に言われて困惑した。母は始めから無理だと分っていながら、そんなことを承知でなお言わずにおれなかったのだろう。
「それでは、近くを散歩しましょう」と言うことになって、夕方近かったけれど、子ども達3人と母と私とで出かけることにした。
 当時、この辺りはまだまだ田や畑が多く、田園風景を楽しみながら、小川の土手に腰をおろして四方山話をした。土手にはすすきが、群生していて花穂が風になびき、まるで一幅の絵の中に居るような風情があった。久し振りに来てくれたおばあちゃんにとって、はしゃぎ回
る孫達の姿は、いつしか母の悲しみを和らげてくれたようだ。
 夕陽に映えたあかね色の雲に、すすきの白い色が映えて、母や子どもたちの顔は生き生きと美しく輝き、早く帰って夕ご飯の支度をしなければ、と心急く私とはうらはらに、母は孫たちと手をつなぎ、大きな声で歌を唄い、もういつもの母になっていた。
暮れなずむ帰途に、つるべ落としに、夜のとばりがおり、すすきの白だけが風に揺れて、子ども達が「恐い、恐い」と怯え出し、5人が手をつないで一生懸命に家路へと急いだ。
 夕ご飯を一緒に済ませ母は帰る際に
「孫は文句なしに可愛いというけれど、今日はつくづくそう思ったわ。たまにしか会っていないのに、こんなになついてくれて、本当に嬉しかったわ。それに生命溢れる、無邪気なこの子達を見ていたら少々のことに悩んで、娘の所に来た自分が、恥ずかしいわ。私のことは大丈夫だから、もう心配しないでね。有難う。子育てがんばってね。」
 日頃、弱気をはかない母が来たのは、よほどの思いがあったのだろうが、その後母はそのことについて、一切触れることはなかった。

 今でもドライブの途中で、すすきの群生を見ると、あの時、帰って行った、母の笑顔が、すすきの合間からちらちらと、見えそうな気がするときがある。

梶 康子
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